ただ好きだという、この気持ち。

□ 今だけ在ればいい。 □

the five senses-4 夜の香(1) ♥

「・・・先生、シャワー」
 申し訳程度に掛けたシーツの下で手足を絡め合って、その重さとか熱とかを感じているだけで満たされる。
 そう思っているのに、と長谷川は内心嘆息する。どうしてこういうことを言うかな、俺は。
「ん?」
 一方の向井は、気怠さを隠そうともしない。それでも視線だけを巡らせてきたので、長谷川も視線を返す。
「シャワー。後で浴びるって言ってましたよね。どうぞ、先に使って下さい」
「あー・・・いいよもう、明日の朝で」
「早起きできるんですか? シンポジウム、九時からですよ」
「できる、できる」
「ホントかなあ・・・」
「ほんと、ほんと。ていうかおまえな、」

 寝返りを打つついでに抱きすくめられて、長谷川は数度瞬きをする。耳元に腕がかぶさっているせいで、向井の声が少しくぐもって聞こえてくる、
「現実に戻るの早すぎだろ。もうちょっと余韻とか感慨とか、そういうのにひたってたらどうだ?」
「はあ・・・すみません」
 もごもごと呟きながら、長谷川は向井の腕を抱く。先刻、この腕がどんなに狡猾に動いたのかを思い出してみる。途端にカーッと頬が上気するのが判って、慌ててシーツの下――正確には向井の胸元にもぐりこんで顔を隠す。

「・・・あの。現実に戻りついでに、ひとつ訊いていいですか」
 その格好のままで、もぞもぞとこう言ってみる。すると向井が覗き込もうとする気配がした。それで長谷川は更にシーツの下へと、半ば無理矢理もぐりこむ。でないと到底こんな台詞、言えやしないから。
「僕も聞きかじっただけなんですけど。一般的に、男同士が、その・・・する、時は、もっと違う部位を使うって・・・」
「ああ、」
 対する向井は淡々としたものだった。長谷川が言えなかったことを、更に直截な単語にして口にする。
「直腸?」
「・・・っ先生! そういう生々しいことを、こんな体勢で・・・!」
「言い出したのはおまえだろ? で、経肛門じゃなかったのが何だ?」

 あー、言うんじゃなかった。そんな後悔でいっぱいになりながら、長谷川はシーツごと寝返りを打った。向井に背を向け、ぼそぼそと言う。
「何でもないです。・・・僕の身体のこと、いたわってくれたのかなって、ちょっと思っただけですけど、そんなデリカシーはないですよね先生には」
「何だよ、不満そうだな。後ろから挿れた方が良かったか?」

「・・・・・・!」
 シーツの中をくぐって伸ばされた向井の手が、まさにその部位を暴くように押し開いたのはその時だった。奥の秘められた箇所に指先を当てられ、長谷川の身体がびくりと跳ねる。
 その勢いのまま、長谷川は反射的に飛び起きていた。なっ、と言ったきり次の言葉が出ない。真っ赤になっているのが自分で判って、更に頬が熱くなる。
 そんな長谷川を、向井は片肘を枕にしつつ見上げてきた。完全に愉しんでいるその表情に、ますます二の句が告げられなくなる。
「ほら。おまえ、指を当てただけでそれだろ。いきなりは、しかもローションの類も何も無しじゃ無理だよ。ついでに言うと俺も無理だ。何度でも言うけど、男を抱いたのは初めてなんだからな」
「・・・・・・にしては豊富な知識をお持ちのようですが! 随分手慣れてたし!」

 やっとのことで言い返したが、向井は面倒そうに顔をしかめただけだった。ごろりと仰向けに寝返りを打ち、薄暗い天井に向かってこんな台詞を言い放つ。
「強引に挿れて、出血しても構わず奥まで突き抜いて掻き混ぜて――そんなにしてたらおまえ、どうなってた。言っとくが、明日も明後日も、ほぼ一日中座ってなきゃいけないんだぞ?」
 確かに・・・かなりキツいことになっていたかも。口の中だけでそう呟いてわずかにうつむいた長谷川には、向井は相変わらず目もくれない。天井を見据えたまま、独り言めいた口調でなおも続ける、
「好きな奴に苦痛を強いるって判ってて、それでも欲望を優先させたりなんかできないだろう。・・・知識と手技についても、概ね以下同文だ」
「・・・え、っと・・・」

 一瞬、息を詰めるようにして考えてから。あの、ともう一度、長谷川は言った。
「もしかして僕は・・・ものすごく愛されてるんでしょうか。向井先生に」
 向井は天井から視線を離さず、返事を寄越そうとしない。そのふてくされた表情が可笑しくて、長谷川はいつしか微笑んでいた。ごそごそと向井の傍へと近寄り、もう一度尋ねる。
「ものすごく大切にされてる気もするんですけど。僕、図に乗ってますか?」

 バカ野郎、と向井が吐き捨てる。でもその声音は照れていて、ますます長谷川の微笑を誘った。
「今頃気づいたのか」
「・・・済みません」
「罰として、明日の昼メシはおまえのおごりだぞ」
「はい。きしめんでいいですか」
「うん。あと、おまえが何と言おうと、今夜はもうシャワーしないからな」
「はい、シャワーは明日の朝ですね。僕が責任持って、先生のこと起こします」
「・・・で、何してんだ。こっち来い」

 ようやく巡らされた視線を受け止め、長谷川は微笑む。はい、と返事をした声は、我ながら甘かった。
 向井の隣に収まりながら、長谷川は深く息を吸い込む。今まで知らなかった、この人の香り。シャワーは明日にして正解かも、と思う。今夜はこのまま、この香りに包まれて眠りたい。
 明日、太陽の最初の光が射すその時まで。



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Date:2014/06/30
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2014/06/30 【-】  # 

* Re: koさまv

今日も(*^_^*)マークありがとうございます♪

今回の長谷川センセ、ちょっと可愛すぎたなあと作者も。ホント、女子高生並み(笑)
本人の言い訳によると、この時は向井先生がぎゅーっとしてたから仕方なく、後方じゃなく前方に逃げたんだ、と、そういうことのようです(笑)
ほんとかー? くっつきたかっただけじゃないのかー? とキャラに突っ込む作者。

さて、明日もしつこく♥でございます。攻守交代バージョン(^o^)
また見てやって下さいませv
2014/06/30 【なか】 URL #hc9S4FeM [編集] 

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