ただ好きだという、この気持ち。

□ 今だけ在ればいい。 □

そしてまたキスをする-1 百万回の間接キス(1)

 次回の症例検討会は向井の担当なので、ここしばらくの彼は資料づくりに追われている。
 まずテーマを決めてからデータをまとめ、ガイドラインや先行論文なども適宜引用しつつ、パワーポイントを使用してスライドを作成。同時に、配布資料としてのレジュメも作る。そして当日は発表及び質疑応答を行う。
 言ってみればそれだけだが、作業量としては案外馬鹿にならない。出席するのは研修医や同格の医局員ばかりではなく、上級医も当然同席する。その全員を納得させられるものを作ろうと思えば、ハードルは自ずと上がっていく。

 しかも、その作業に取りかかれるのは外来・入院双方の患者に係わる診療全般が終わってから。つまり、早い時で十九時、遅ければ二十一時を回ってからだ。
 更には、実患者のデータを使用しているために院外持ち出しは厳禁。全ての作業は医局に居残って行わなければならない。当然ながら、その時間は残業とは見なされない。

 とはいえ、こうしたことを厭うタイプの医師は、この病院ではごく少数派である。元々の機能として、臨床だけでなく研究をも主体においている病院なので、ここに配属されている間は少しでも多くの症例と知識とを吸収しようとするものだ。
「・・・先生、お疲れ様です。コーヒーどうぞ」
 向井はその典型だ、と長谷川は、向井の邪魔にならない位置にカップホルダーを置きつつ思う。
 というより、負けず嫌いだからな、この人は。
 完璧主義というのとも違う。単に、出席者全員をねじ伏せたいと思っていて、そのための努力を惜しまない。いや勿論、向学心とか向上心とか、仕事に対するモチベーションの高さとか、そういうものがベースにあっての話だが。
 
「お、サンキュ」
 向井はというと、カタカタと快調な音を立ててキーボードを打っていたが、傍らに立った長谷川を見上げるとメガネの奥の瞳をほころばせた。そして、短い謝辞。
 それだけで長谷川は、胸がほんのりとあたたまるのを感じる。自然に微笑みを返してしまっていて、そのことに一人で照れていると、不意に向井が言った。
「あれ? おまえのは?」
「・・・あ」
 空っぽの手元を見つめられて、長谷川は軽く瞬きをした。まさか本当のことを言うわけにはいかないので、慌てて言い訳を探す。
「医局のオフィスコーヒーは、僕にはちょっと熱いので・・・今、冷ましてるところです」

 まあ、あながち嘘というわけでもない。実際、もう一人分のコーヒーは既に準備して、サーバーの近くに置いてある。
 けど、苦しい言い訳だよな。そう思って、内心ひやひやしていた長谷川だったが、向井は軽く首を傾げただけだった。口角を軽く上げ、カップホルダーを手に取る。
「そっか。おまえ、猫舌だもんな」
「はい」

 微妙に鼓動を早くしながら、長谷川は向井の手元――というか口元を見守った。向井はというと何も疑う様子もなく、ごく、と一口、
「・・・っ、おい長谷川、これ!」
 向井は案の定、一口だけで飲むのをやめた。咎める表情を浮かべて長谷川を見やる。続く台詞さえも長谷川には予想できてしまう。この人のことだからごく端的に、
「甘い!」
 ビンゴ。
 


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*お題配布元;【確かに恋だった】さま/そしてまたキスをする/ありがとうございます♪「そしてまたキスをする」で5話続きます。宜しかったらお付き合いくださいv



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Date:2014/07/11
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2014/07/11 【-】  # 

* Re: koさまv

(*^_^*)マークありがとうございます♪

えへへ、ですよね~。長谷川先生、何を企んでいるのやら?
明日、明らかになります。本人も言いますけど、ちっちゃい企みです(^^)

今回はずっと、ほのぼのらぶらぶかな~。
♥の回もありますが、割とライトです・・・多分(笑)
明日も見てやってくださいませ~(^^)/
2014/07/11 【なか】 URL #hc9S4FeM [編集] 

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