ただ好きだという、この気持ち。

□ 今だけ在ればいい。 □

スキ・キライ1

 向井が玉ねぎ嫌いだと長谷川が知ったのは、医局の飲み会の席でだった。
 あの時の会場は確か中華屋で、向井の隣の席についたのは偶然だった。
 最初は当たり障りのない話をしていたと思う。
 が、取り分けた酢豚に入っていた玉ねぎを向井がさりげなく皿の隅々によけているのに気付いて、その手元をついじっと見てしまった。

「向井先生、・・・それ、苦手なんですか?」
 話の切れ目についそう訊いてしまって、すぐさま後悔したが、口に出してしまった言葉は無かったことにはできない。
 気まずく黙りこんだ長谷川を、向井は軽く目を見張るようにして見返してきた。
 済みません、と咄嗟に謝りそうになった時、黒ぶちメガネの向こうの瞳が不意に照れた。

「ああ、うん、玉ねぎ。いや、刻んで混ぜ込んであったら大丈夫なんだけどな。こんなふうに、原形を留めて入ってると、ちょっと」
「はあ・・・」
 意外に子供っぽい人だな、と、この時に初めて思った。
 しかもその感情は、甘いような感触を伴っていて、長谷川は戸惑った。

 それまで長谷川が知っていた向井という男は、診察の時も症例検討会の時も、いつも鋭い眼差しをして明快な話し方をして、誰も考えていなかった死角を突いてくる医者だった。
 長谷川の指導医は別にいたが、実質は向井から診断の組み立て方を学んでいると長谷川は思っていた。

 そんな向井が初めて見せた、真っ直ぐな、少年めいた表情。

 見とれたんだ、と長谷川が自覚するのにはまだ少しかかる。
 そして、向井の皿に入っていた玉ねぎを長谷川が引き受けるようになるのにも。


-end-



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Date:2014/06/21
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