ただ好きだという、この気持ち。

□ 今だけ在ればいい。 □

そしてまたキスをする-1 百万回の間接キス(2)

「いや、向井先生、お疲れみたいでしたから。こういう時はちょっとだけ砂糖を入れた方がいいかなと」
 本当はちょっとじゃなくて、三グラムのスティックシュガーを三本も入れたけど。というのはもちろん口の中だけで呟いて、長谷川は向井のリアクションを待つ。多分、

「いや、疲れてても甘いのは要らない。うー、一口飲んじまった。口の中も喉も甘い!」
 ですよね。予想通りの反応に、長谷川は内心ほくそ笑む。でも表面上は淡々と、あくまでも善意を装って。
「糖分は脳を活性化するんですよ?」
「それでも要らない。・・・あ、いや、せっかく淹れてくれたのに悪いな。でも今度からは砂糖抜きで頼む」

「判りました。済みません」
 神妙に答えてから、ふと思いついたふりをして付け足す。・・・って俺、わざとらしくないかな。そう思わないでもないが、長谷川は敢えて開き直る。バレても、その時はその時のことだ。
「じゃあそのコーヒー、僕が引き受けます。先生には新しいのを」
「あ、そうか? いや、淹れ直さなくても、おまえ用のがあるんだろ。冷ましかけのやつ。それでいいよ」
「・・・そうですか?」

 ここまで思うように事が運ぶと、却って良心が咎めるな。
 そう思いつつ、長谷川はもう一つのカップホルダーを向井の元へと運ぶ。そうして内心、言い訳を重ねる。でも俺の企みなんて小さいもんだから。だから向井先生、勘弁して下さい。
 かくて、策略は大成功。向井の元にあったコーヒーは長谷川のもとへ。長谷川が準備していたコーヒーは向井のもとへ。こっちにも仕込みアリだけど、それは砂糖やミルクなんて健全なものじゃない。
 右手でカップを持った時に唇がつく位置に、無色透明のキスマークをひとつ。それだけ、といえばそれだけだ。
 
「・・・何ニコニコしてんだ」
「いえ、別に。・・・というかニコニコなんかしてないですよ」
「いや、待て。なんか・・・変だな。俺、罠に掛けられてないか?」
「罠なんて、とんでもない。何を根拠にそんな?」
「根拠・・・ていうか勘だよ。男のカン」
「非科学的だなあ。まあどうぞ、ブラックコーヒーで休憩してください。僕も甘いコーヒーを頂きますので」
 それと、と長谷川はコーヒーに息を吹きかけて冷ましながら、胸の内で呟く。
 あなたとの間接キスを、一晩でふたつも。

「・・・うわ、ホントに甘い」
 慎重な動作で一口飲んでから、長谷川は思わず口走った。すると途端に、向井が得意顔になる。そうだろ!? などと言いながら、右手でカップホルダーを握る。そうしてそのまま、ごくりとコーヒーを飲む。
 ふふ、とつい笑ってしまいながら、長谷川は甘ったるいコーヒーの入ったプラカップに唇をつけた。そうしてゆっくりと味わう。熱いコーヒーを冷ましているふりをして、
 そこに付けられた向井の唇の味を。

 さあ、次はどうやって、あなたから間接キスを掠め取ろうか。
 でもね、この方法なら、衆目の直中でも構うことなく、あなたとキスを重ねることができるんですよ。うまくやれば、ですけどね。
 俺のこの企みに、あなたはいつか気づくだろうか。
 気づいてからは、共犯者になってくれるだろうか?

「ご馳走さん」
 カタ、とこの時、向井がカップホルダーを置く音がして、長谷川は我に返った。きれいに空になったプラカップを見下ろし、反射で自分の手の中を見やる。まだたっぷり残っている砂糖入りコーヒーは、ようやく猫舌用の温度になってきたようだ。
 そのコーヒーを、長谷川は改めて啜る。向井はといえば、何事もなかったようにまたパソコンに向かっている。
 その横顔へと、長谷川は先刻の続きを語りかけてみる。勿論声には出さずに、心の中だけで。ね、向井先生。共犯者に・・・なってくれますよね?
 だから、それからは。
 二人で間接キスを繰り返そう。一万回でも、・・・百万回でも。
 
 


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*お題配布元;【確かに恋だった】さま/そしてまたキスをする/ありがとうございます♪「そしてまたキスをする」で5話続きます。宜しかったらお付き合いくださいv



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Date:2014/07/12
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2014/07/12 【-】  # 

* Re: mさまv

本館に引き続き、koさまという前提のもと馴れ馴れしいリコメをば(笑)

(*^_^*)マークありがとうございます♪
メ付きのもついでにありがとうございます!


ほんとにねー、こんなにも乙女になっちゃって♥ 向井センセ責任取ってあげて!って感じです。
「本能で生きてる」に大受け(^o^) 確かに! 野生のカンが異様に鋭そうです、向井センセ。
その割に、丸めこまれてますけども(笑)

向井センセの玉ねぎはもう、長谷川センセの中では「自分のもの」認定がされてますから。
最後の方の回に、今日の定食には玉ねぎ入ってないんだ・・・ってがっかりするシーンとか、出てきますよ(^o^)
全くもうこのやろ! あーでも今回のシリーズは大体ずっとこんな感じです。ご覚悟下さい♪
2014/07/12 【なか】 URL #hc9S4FeM [編集] 

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2014/07/12 【-】  # 

* Re:そうですね~

玉ねぎは既にデフォルトになってるかもですね(^o^)
むしろ、玉ねぎを残すだけ残して、そのお皿を渡してくれなかったりしたらショック受けそう。
・・・このネタで1本書けそうなので、この辺にしておきます(ふふふ)

お客様、おかげさまでじりじりと増加傾向・・・なのかな(^^)ゞ
拍手はホントありがたいです。すごく支えてもらってます~。あ、でコメントにもばっちり支えられてますよ!
どちらでも、押し(or書き)やすい方で。はい(^^)
2014/07/12 【なか】 URL #hc9S4FeM [編集] 

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