ただ好きだという、この気持ち。

□ 今だけ在ればいい。 □

そしてまたキスをする-2 君のキスはいつも短い

「ほんとに良かったです、穏やかに終わって。・・・あ、改めまして、お疲れ様でした」
 向井が発表した症例検討会は、さしたる波乱もなく終了した。というほど大したイベントではない筈なのだが、長谷川としてはどうしたって胸を撫で下ろさずにはいられない。理由は、まあ、いろいろ。

「何だよ、大袈裟だな」
 対する向井はというと、当然ながら不審そうだ。無理もないといえば無理もない。
 症例検討会は月に二度定期的に行われるものだし、院内の、しかも出席者は基本的に同じ科のドクターだけだから――テーマによっては他科の医師も参加する場合もあるが――、いわばルーチンワークなのだ。発表者も輪番制で回しているし。
 つまり、学会発表というわけでもなし、そんなに大袈裟に安堵されるほどのものじゃない。というのが向井の言い分なのだろうが、それでも。

「大袈裟にもなります。前回の向井先生の発表を経験してますから」
 ちなみにここは、病院から電車で三駅離れたところにあるシティホテルの地下ラウンジ。上のレストランフロアで適当に夕食を済ませて、ここに潜るというのがここのところの定番になっている。
 勤務先から適度に離れたところで、エレベーターの乗降だけで食事から食後の一杯まで済ませることができて、場合によってはその次も――という場所となると、自ずからホテルになってしまう。
 ついでにいうと、同じタイプのホテルでも居心地の良し悪しはあるし、好みもある。よって、大体いつも同じホテルに決まってくるというわけだ。ちなみに、今日はご宿泊はなしの予定。
「前回? 俺、なんかやったっけ」

 店の一番奥の隅、二人掛けのテーブル。そこが彼らの定位置だ。空いていない場合は仕方なくよそに座るが、今夜はちゃんと空いていた。それだけで向井が機嫌のいい顔になるのが、長谷川には可笑しい。
 今も向井はリラックスした様子でテーブルに肘をつき、上から掴むようにしてグラスを持ったまま、わずかに眉を寄せて記憶を探っている。

 そのグラスの中身はバーボンのロック。長谷川のグラスはというと、同じくバーボンの、こちらは水割りだ。気持ち薄めで、というオーダーは、もう言わなくても通るようになった。向井のオーダーも同じく。
 しかしそれは、ここのスタッフの優秀さを物語るものであって、そんなにも通い詰めているのかという批判を受けるほど通い詰めては・・・って、
 思考が迷走してきたという自覚があるから、まだ酔ってない。長谷川はそう自分に言い聞かせ、取りあえず向井へと視線を返す。

「なんか、じゃないでしょう。第一選択とすべき抗生剤について、兼沢先生と本気でやり合ってたじゃないですか。フォローアップ検査の内容と頻度についても」
「あー、あれは・・・いや、そんなに大したもんじゃなかっただろ? っていうか、兼沢先生が時代錯誤なこと言うから」
「それにしたって上級医は一応、立てておかないと。そもそも向井先生は、売られた喧嘩を全部買うでしょう。いえ、それはまあいいんです。向井先生らしいし。ただね、逃げ道くらい残しておいてあげるのが喧嘩のルールですよ」
「・・・お説ご尤も、だな」

 ニヤニヤ笑い付きで頷かれて、長谷川は失言に気づいた。しかし、遅かった。面白いよなおまえ、とクスクス笑いに紛らわすように言われて、目尻が赤くなる。
「酔うと毒吐くんだよな、しかも礼儀正しく理路整然と。実はそれだけ抑圧されてるってことか? 適宜解放してやってるつもりだけど、足りないのかな」
「酔・・・ってませんし、抑圧もされてません」
 解放云々については、どう答えてもヤバいことになりそうなのでノーコメントです。と、これは口に出さずに呟いて、長谷川は内心頷く。よし、俺、冷静だ。酔ってない。
 しかし、

「酔ってても酔ってなくてもいいけど」
 と、長谷川をいきなりがっかりさせておいてから。向井は更に、こう言い足した。
「抑圧はされてる。絶対に」
「・・・向井先生がですか?」
「バカ。おまえがだ」
 本気の口調で叱られて、長谷川は首を傾げた。咎めるような向井の視線が、何だか痛い。
「僕が抑圧されている、として・・・それでどうして先生に、こんなふうに怒られなきゃいけないんでしょうか」

 こういう質問を口にするというのは、つまり誘っているということになるんだろうか。なんて考えている辺り、やっぱり酔ってるかも、俺。
 長谷川がそう思っていたところに、向井がさらっとこう言った。
「抑圧の証拠で、俺が怒ってやりたくなること・・・っつったらいろいろあるけど」
「いろいろあるんですか!?」
 その段階で結構なショックを受けている長谷川を、向井はちょいちょいと指先で招く。耳を貸せ、と言っているらしい彼に応えて、長谷川は慎重な動作でテーブルに肘をつき、上体を軽く乗り出した。
 そして囁かれてきた言葉はというと。はっきり言って、奇襲もいいところだった。
「一番はキスだな。おまえからのキスはいつも短い!」
「はっ・・・!?」
 
 
 

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*お題配布元;【確かに恋だった】さま/そしてまたキスをする/ありがとうございます♪「そしてまたキスをする」で5話続きます。宜しかったらお付き合いくださいv



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Date:2014/07/13
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2014/07/13 【-】  # 

* Re: koさまv

(*^_^*)マークありがとうございます♪

酔うと理路整然と、礼儀正しく毒を吐く男。
って単なる絡み酒では・・・という気もしないではないですが、まあ長谷川先生だからよしとしましょう♪(え)
それに晴れ姿は一瞬で終わり、すぐに弄ばれてますしね(^o^)

長谷川先生が向井先生を翻弄する日が、いつかやってくるのでしょうか。
頑張れ、長谷川先生! 取りあえず明日も頑張れ!(笑)

2014/07/13 【なか】 URL #hc9S4FeM [編集] 

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