ただ好きだという、この気持ち。

□ 今だけ在ればいい。 □

そしてまたキスをする-5 間接キスのつづき(2)

あの、先生、どちらへ?」
 追いついて問いかけた長谷川に、向井は歩をわずかに緩めつつ答える。
「どこって、食堂だよ。メシ食いに。昼だから」
「そう、ですよね・・・あの、僕もご一緒していいですか」
「そりゃいいけど」
 見下ろしてくる向井の眼差しにはわずかに心配そうな色があって、長谷川の口角はつい上がってしまう。

「食欲、出てきたのか? 何か食えそう?」
「食欲は、まだですけど。でも吐き気もないので。だから、ええと、ストレートの紅茶か何か、飲みます。・・・この蜂蜜を入れて」
 ふうん、と向井は鼻を鳴らす。こういうの持ち込みになるのかな、などと言ってから、自分で結論を出している。
「まあいいか? これくらい」

 だから長谷川も笑顔で頷く。
「はい。自分の箸を持って行くようなもんでしょう」
「でも味噌汁は食堂では飲むなよ。これにお湯入れてください、とか、おばちゃんに言ったりするなよ」
「言いませんよ、そんなこと。・・・後で一人で味わって食べます。向井先生の買ってくれた味噌汁ですから」
 ありがとうございます、と言った声音には随分と気持ちがこもっていて、長谷川は自分でも戸惑った。向井もそうだったらしく、一瞬足が止まる。

「いや、そんなに有り難がるほどのもんじゃないぞ。二百円でお釣りが来るし」
「でも、これ一杯に七十個分のしじみエキスが入ってる、って。それに、プラス蜂蜜で結局二百円以上したでしょう」
「それでも五百円ちょいだ。おまえ、安上がりすぎるよ」
 また歩き出しながら、向井が微笑う。それだけで長谷川は、簡単に幸福になってしまう自分を自覚する。ほんと、安上がりだ俺。
「それにしても蜂蜜かあ、これが効くなんて知らなかったな。今度から事前に服用しておきます。・・・あ、事前でもいいんですよね?」
「知らなかった、って、昨夜から俺がそう言ってやってただろ。ったく、人の話を全然聞いてないんだから。・・・ああ、事前でも事後でも、二日酔いの頭痛に効くらしいぞ。一番いいのは、スプーンに一杯分くらいを直接舐めることらしいけど」

 ぶつぶつ文句を言いながらも、そう教えてくれた向井に、軽い一礼を送りつつ。
 長谷川は、思いを巡らさずにいられない。
 もしもまた二人で呑んだくれて、自分は勿論この人も二日酔いになったら。
 しかも帰るのは無理ってことで、ホテルの同じ部屋に泊まっていたりなどしたら。
 そうしたらこの蜂蜜を、交代で舐め・・・って、なんかすごくヤバい光景のような気がするけど、やってみたい気もすごくする。

 でも無理かもな、と長谷川は、考えた端から思ってみたりもする。
 向井先生、酒、強いから。それに甘いの嫌いだし。
 だけど、向井先生だって二日酔いになる可能性はゼロじゃない。それに、この圧倒的な頭痛の前では、さすがのこの人も甘いのがどうとか言ってられない筈だ。・・・だから。
 この蜂蜜は、医局の机の引き出しに大切に入れておいて、向井先生と呑む時には忘れずに持って行こう。ああ、スプーンもセットしておかないと。

 そうして、二人で蜂蜜味の間接キスをして、その後はもっと濃厚な蜜の味のするキスを。
 って、実現したら俺、幸福感で心停止するかも。
 そんなことを考えて呆然としていたら、いつの間にか職員食堂に着いていた。食券機の列に、向井に続いて並びながら、長谷川は手に提げたレジ袋の中をもう一度覗いてみる。
 と、ふと振り返った向井にハハッと笑われた。その理由を訊いても、その時は「後でな」としか言ってくれなかったけれど、

「ん? だから、先刻のおまえ。・・・欲しくて仕方のなかったお菓子を買ってもらった子供みたいだったから」
 テーブルに落ち着いてからそんな言葉を聞かされて、長谷川は表情の選択に困った。怒ったものか、笑ったものか。
 でも結局は笑った。その通りだな、と思ったから。
「・・・そうですね。そんなところです」
 目の前には湯気の立つ紅茶のカップ。もちろん、蜂蜜は既に投入して、よく掻き混ぜてある。ただ、もうちょっと冷まさないと長谷川には飲めない。なので、お預け。
 対する向井は今日もA定食だ。食材に玉ねぎは使用されていなかったようで、順調に箸を動かしつつ、長谷川を見やって軽く笑う。
「ほんっと安上がりだなあ」

 そうでもないですよ、と長谷川は、声には出さずにこう答える。
 これで案外、日々策略を巡らせたり、機会を窺ったりしてるんですから。安く済んだと思ってても、実は高いものについているかも。クーリングオフは、当然ですが受け付けません。
 狙いは、あなたとの間接キス。そして、
 そのつづきもね。あわよくば。
 

  
 
END.
 
 

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*お題配布元;【確かに恋だった】さま/そしてまたキスをする/ありがとうございました♪



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Date:2014/07/18
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2014/07/18 【-】  # 

* Re: koさまv

(*^_^*)マークありがとうございます~♪

今回のシリーズは全般的に、長谷川先生が乙女でしたね。乙女満喫!(^^)
そして庶民派です。策の弄し方からして庶民(笑)
いやいや、向井先生がくれたから嬉しいんですよ~。ネ!
向井先生がくれるものだったら、薬の名前の入ったボールペンとか、街で配ってたポケットティッシュとかでも感激しそう。乙女だ・・・。

そ・し・て、次回なのですが。
これがまだ現時点(14:30)で白紙だったりしてー!(^o^;)
全く違う、たとえばサラリーマンものとか、学校ものとかも書きたい気がするし、向井先生たちで軽めの連作も書きたい気するし、もちろん向井先生が翻弄されて慌てるネタも!
うーん、何しろ時間がないので、向井先生たちで夏休みものとか。その辺を書きつつ、次の構想を練りましょうかね。
ああ、返す返すも、休みが終わってしまうのがつらい!(´Д`)
2014/07/18 【なか】 URL #hc9S4FeM [編集] 

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