ただ好きだという、この気持ち。

□ 今だけ在ればいい。 □

普通のことしか言ってない-1 「ほら、わかる?」(2)

「えっ、長谷川先生は向井先生の彼女さんのこと、ご存知なんですか?」
 たちまち色めき立ったナースたちから一斉に注目され、長谷川はぐっと言葉に詰まった。
 いや彼女なんてモノのことは知らない、というか今の「判るだろ」は多分そういう意味じゃない。と咄嗟に思い、そのまま口走りそうになったが、途端に向井の視線が突き刺さるのを感じた。え、ええっとえっと・・・内心冷や汗をかきながら、懸命に言葉を探す。
「えーと・・・多分、あの人かなっていうのは、何となく・・・」
 といっても俺の予想、というか希望のとおりなら、だけど。という長谷川の心の声は、当然ながらナースたちには聞こえなかったらしい。
 きゃーそうなんだー、と一斉に頷かれ、難を逃れたかと長谷川が胸を撫で下ろしたのも束の間。矛先が急旋回して、気づいたらいきなり矢面に立たされていた。

「ところで長谷川先生は?」
「そうそう、長谷川先生のプライベートって謎ですよねー」
「んー、でも私、長谷川先生にはきっと彼女がいると思うな! なんかね、愛し愛されてる感じっていうか? そういうムードがありますよね、先生」
「あー判る気がする、それー。でも長谷川先生の彼女ってどんなタイプなんだろ、想像できない」
 うんうん、と頷き合うナースたちに、つい苦笑する。想像できなくて当然だ。彼女なんて、そんなのは――

「・・・気が強くて頭が切れて、仕事もできて、すごく尊敬できる人。でもちょっと子供っぽいところもあって、そこが・・・」
 ・・・っと待て、何を口走ってんだ俺は!? 愕然として言葉を切ったが、笑い出したいのをこらえているような顔、顔、顔に取り囲まれていることに気づいて、余計に動転した。
 助けを求めて向井へと視線を走らせたが、向井は素知らぬ顔でキーボードを打っている。ひどい。

 と、ここでようやく天の助け、師長登場。ごっほん! と盛大な咳払いが響いて、向井と長谷川の周囲からたちまち人影がなくなる。
「あの、先生・・・」
 恐る恐る隣を見やったが、向井はまだ素知らぬ顔のままだ。カタカタ、と数回マウスをタップさせてからカチリとクリック一回、ログアウトして電子カルテを閉じると立ち上がってしまう。
 しかもそのまま、さっさとスタッフステーションから出ていってしまった。取り残された格好になった長谷川は、軽く呆然としてしまう。

 えーと・・・今の、何だったんだ? 白昼夢か? いっそそうだったらどんなにいいか。
 いや、きっとそうだ。人前で、というか職場であんなこと、・・・誰とは言わなかったにしろあんなことを、言われたり言ったりしたなんてあまりにも現実味がなさ過ぎる。

 と、長谷川がすっかり現実逃避しかけていたその矢先。
 ディスプレイのヘッダ部分に、封筒のアイコンが点滅しているのに気づいた。・・・院内メール?
 半ば反射的に、長谷川はそのアイコンをクリックした。と同時に腰が抜けそうになる。
 差出人は、向井統。文面は、
『懸案事項については応相談。追って連絡する。』
「・・・・・・」
 懸案事項? とまず思った。それから、ようやく思い至る。そもそも夏休みの予定について話していたんだった。応相談。という、ことは・・・、
 判るだろう、とまた言われた気がした。しかも、耳元なんかよりもっと近い、心臓辺りに直接、内側から。

 はい。と差し当たり、長谷川は声に出さずに返事をする。それから、そのメールを削除するかどうかひとしきり迷う。
 別に誰かに見られても問題ない文面ではあるし、院内ネットのログには通信記録として残る。だったらもう少し、受信トレイにあの人の名前を飾って眺めていたい気もする。
 だけど。

 結局長谷川は、そのメールを削除した。個人携帯にじゃなくわざわざ院内メールで送信してきたのは、そうしろという意図があってのことだろうと思ったので。
 それからもう一度、向井をなじる。あなたからのメールを削除させるなんて、残酷な人だな、と。
 気が強くて頭が切れて、仕事もできて、すごく尊敬できて、でもちょっと子供っぽいところもあって、なおかつ残酷でドSな、俺の――
 
 その続きは心の中ですら言えず、長谷川はただ赤面した。
 前にしているディスプレイに表示されているのは相変わらず初期画面であるところのポータルサイトのままで、「夏季休暇の申請について」という一文がやけにくっきり浮かび上がって見えていた。
 
 

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*お題配布元;【確かに恋だった】さま/エロくないセリフ5題/ありがとうございます♪ エロいことなんて、言ってないよ?で5話続く予定です。




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Date:2014/07/20
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2014/07/20 【-】  # 

* Re: koさまv

(*^_^*)マークありがとうございます~♪

ね~、なぜに長谷川先生が言うと、真情吐露! みたいになるんでしょう。
頭の中身もれてる、的な。
普段ぎゅーっと隠してる反動でしょうかね。あと、向井先生は俺のだ! みたいな意識もちょっとあったんでしょうか? 
それにしても、乙女ぶりを無駄に発揮するだけになってしまいました。あはは、可哀想(^o^)

ってそう、夏休みの予定について話してたんですヨ!
そのことも忘れるくらい、乙女発言に視線釘付けになっていただいたのなら、作者としてはしめしめです(-∀-)

ああ~私の病休という名の夏休みがあと一日で終わる~(泣)
ハイッぼちぼち頑張りますね~♪
2014/07/20 【なか】 URL #hc9S4FeM [編集] 

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