ただ好きだという、この気持ち。

□ 今だけ在ればいい。 □

普通のことしか言ってない-2 「ちゃんと見て」(1)

「というか先刻のは何だったんですか。人前であんなこと・・・露出プレイですか」
 あの後すぐに、個人携帯にメールが入っていた。かくて長谷川はここにいる。いつものホテルの地下ラウンジ、いつものテーブル。目の前には涼しい顔をしてロックグラスを傾けている向井。

「敢えて言うならマーキングかな。そもそも、誘ったのはおまえだろ」
 淡々と言い返されて、長谷川は表情の選択に悩む。ここは怒ったものか、笑ったものか。
「えーと・・・マーキングということは、先生が先刻仰ってた『恋人』というのはもしや・・・」
 一応、というか切実に確認したくてそう訊いたのに、またじろりと睨まれた。まだ自覚できないのか、と吐き捨てるような口調で叱られ、済みませんとつい口走る。
 いや違うそうじゃない、謝ってる場合じゃなくて。

「誘った、って・・・! そういう無駄にエロい言い方やめていただけませんか」
 憤然と、ただし声量は抑えて抗議したのに、あっさり受け流された。それはいつものことだが、続いた言葉はちょっと聞き捨てならなかった。
「誘ったじゃないか。目ェくりくりキラキラさせて、先生と一緒に夏休みを過ごしたいです、っつって」
「言ってません、そんなこと! 目もくりくりキラキラなんかさせてませんし!」
 今日の長谷川はちゃんと、秘密兵器・蜂蜜を投入してきたので、多少の酒は怖くない。といってもグラスの中身はいつもの、「気持ち薄め」なバーボン水割りだが。というか、正確には「気持ち」はもうオーダーから省いた。きっぱり、薄めの水割り。

 一方の向井は、長谷川の強気など鼻先で笑い飛ばしてのける。
「ふーん? とことん自覚ない奴だな。じゃあ、あの熱烈な告白は? あれも無自覚の産物?」
「告白・・・って」
 あれはその、と口ごもってしまうのが俺のダメなところだよな。と、そういう自覚は長谷川にもある。口ごもった後で、前後の見境もなく強がってしまうというのも。
「別に、向井先生のことだとは・・・言ってませんし」
「ああそう。じゃ誰のことだ?」
 口調こそ淡々と乾いているものの、向井が機嫌を損ねたのが長谷川には判った。途端に心臓がぎゅっと鳴る。自然に視線がテーブルの上へと落ちた。

「・・・ほんとは、向井先生のこと・・・です」
 すぐに降参。だらしない。自分でもそうは思う。だけど、と長谷川は両手でグラスを握りしめた。
 この人に嫌われたくない。その気持ちは、どんな見栄よりプライドより強い。向井が何と言おうと、いつまでも続く関係じゃないと長谷川は思っているし、それは事実だと判ってもいる。だからこそ、一緒にいられる時間を大切にしたい。
 そのためなら何でもする――とまで一瞬にして思い詰めて、長谷川はふと自嘲する。それならあんな、突っかかるようなこと言わなきゃいいのに。

 ・・・と。
 伏せた視界に、急に何かが侵入してきた。長くて優美な五指、骨張っているのに美しい両手。それが長谷川の手を、上から包みこむ。グラスで冷えていた手が、あたたまっていく。
 咄嗟に視線を上げると、向井が微笑っていた。仕方ない奴だな、と言いたげに、でも、愛おしそうに。
 その唇がゆっくりと動いて、囁き声を紡ぎ出した。
「今の、もう一回」
「・・・え」
「ちゃんと俺を見て、もう一回言ってくれ」
 
 

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*お題配布元;【確かに恋だった】さま/エロくないセリフ5題/ありがとうございます♪ エロいことなんて、言ってないよ?で5話続く予定です。
 



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Date:2014/07/21
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2014/07/21 【-】  # 

* Re: koさまv

(*^_^*)マークと、向井先生への一票ありがとうございます(^^;)

いやその済みません。本人にもどうにもならないんです、これ。
今回のシリーズでも一度腰が退けます。そして多分koさまに叱られます(笑)

とはいえ、向井先生もだんだん学習してきました。
今回も、お目々くりくりキラキラが見えましたしね!(^o^)


2014/07/21 【なか】 URL #hc9S4FeM [編集] 

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