ただ好きだという、この気持ち。

□ 今だけ在ればいい。 □

普通のことしか言ってない-4 「すごくいいよ」(1)

 その週末のホテルは、いろいろ考えた結果、いつも使っているところとほぼ同じグレードのところにした。客室タイプもツイン。ただし、セミダブルサイズのベッドが入っているところ。これも普段と同じだ。

「もっとこう、リゾートっぽいところじゃなくて良かったのか? でなきゃ高級なところ。いっそ、どっかのスイートとか」
 昼前に待ち合わせ、昼食を外でゆっくり済ませてから、十四時過ぎにチェックインした。
 取りあえず荷物を置いて、またどこかへ出かけるか、それとも夕食まで部屋でのんびりするか。特に予定を決めない週末は、それだけで充分リゾートだと長谷川は思う。部屋のランクなんて、さして重要じゃない。
 だから、入室してすぐに向井がこう言っても、長谷川は笑って首を横に振った。ちょっと暑かったので、エアコンのリモコンを取ると室温を下げる。
「宿泊費がもったいないじゃないですか。どうせここですることっていったら・・・」

 言いかけたものの、最後まで言えずに赤面する。そんな長谷川に、向井はニヤニヤ笑いを向けてきた。
「普段乙女なくせに、こういうところは男だよな、おまえ。合理的っていうか」
「こういうところも何も、僕は男ですよ。向井先生が一番よく知ってるでしょう?」

 そう言い切った長谷川を、向井はじっと見下ろしてきた。
 何やら言いたげなその瞳を、長谷川は軽く顎を上げて見やる。先生は、と気づいたら言っていた。
「僕が女だったら良かったと思ってますか?」
「・・・うーん・・・」
 向井は真面目な表情のまま、首をひねった。そして、ぼそぼそとした口調でこう言った。
「どっちでもいいよ。おまえがおまえだったら」

「・・・そういう殺し文句を、こんなに陽の高いうちからどうして言うかな・・・」
 文句をつけるような調子を取り繕ったつもりだけど、うまくいっていたかどうか自信がない。
 だから長谷川は早々に諦めて、両手を伸ばすと向井のメガネを外した。そのまま軽く踵を上げて、唇を寄せていく。
「僕も、自分が女だったら良かったとか、不思議と思ったことないんですよ。・・・先生の周囲をうろつく女は、正直目障りですけどね」
 そう言い足した時には、向井の両腕の中に閉じ込められていた。それ独占欲? と、唇を触れ合わせたままで訊かれ、くすぐったさに首をすくめながら小さく笑う。
「そうですよ」

 それから長谷川は、向井の背へと両手を回す。メガネのテンプルを持ったままの右手と、そして空いている左手で、薄いシャツ越しに向井の背中の形を辿っていく。
「女にも、まして男には負ける気はしないけど。でも、もののはずみとかあるでしょう。心配ですよ、向井先生って意外とモテるから」
「意外とって何だよ。そもそもそれを言うなら、俺の方がもっと心配だ。おまえがよそでも、俺の前で見せるような顔を晒してたらと思うと」
「何ですか、それ。やっぱり僕のこと乙女だって言いたいんですか? 違うって言ってるじゃないですか」
「バカ、言葉の裏の意味を読み取れ。・・・そういうおまえ、物凄く可愛いっつってんだ。よその男が、まあ女でも一緒だけど、コロッと参ってちょっかい出して来たらと思うと気が気じゃない」
 
 むしろおまえが男だから余計まずいんだ、と突然きっぱり断言されて、長谷川は目を瞬いた。
「ギャップ、つーのかな。おまえって普段はドライで、人間関係とかは俺よりよっぽどソツなくこなすだろ。なのに不意打ちで可愛いところを見せられたら、やたらクラッとくる。しかもおまえのは女と違って打算や計算ずくじゃなく、素でやってるだろう。だから尚更タチが悪いんだ」
「はあ・・・済みません」
 向井が本気で憤慨しているようなので、取りあえず謝ったら、余計にぎゅうぎゅう抱きしめられた。謝らなくてもいいけど、と怒った口調で言われ、何と言ったものかとしばし考える。
 あ、そうだ。

「先生、機嫌直して下さい。そうそう、ここね、夜景が綺麗なんですって。だから部屋取る時、なるべく上の階で、って希望したんですよ。・・・でも考えてみれば、男二人の宿泊でそういうのって怪しかったですかね」
 んー、と向井は唸るような声で言う。
「別に怪しくないだろ。ベッドだって二つだし」
「でもベッドは、構造上無理な時以外はずらしてくっつけるじゃないですか」
「その場合、チェックアウトの時は元通りにするだろ」
「それは当然でしょう、社会人として。・・・ところでどうして僕ら、立ったままこんなことしてるんですかね」

 そう、立ったまま、抱き合ったまま、唇を触れ合わせたまま。そうして吐息と一緒に言葉を交わして。
 いつになく――というより初めてだ、と長谷川は思う。こんなふうにゆったりと、慈しみ合うような時間を過ごすのは。
 今までホテルを使った時はいつも、何かに急き立てられているような感覚があった。それは時間的なものだったかもしれないし、互いの欲望に、だったかもしれない。追いつめられて追い落とされる感覚も悪くはないけど、でもこういうのも――

「なんか、夏休みって感じでいいな。時間の流れ方が違ってる」
 向井が先にそう言って、長谷川はクスッと笑う。
「そうですね。・・・ただの週末なのにね」
「ただの、じゃないよ。特別だ。・・・判ってんだろ」
 向井の唇が長谷川の耳朶を捉えた。囁きに溶かされた声が辿った言葉は、
 ――おまえと、
 
 
 

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*お題配布元;【確かに恋だった】さま/エロくないセリフ5題/ありがとうございます♪ エロいことなんて、言ってないよ?で5話続く予定です。



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Date:2014/07/25
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2014/07/25 【-】  # 

* Re: koさまv

あっ、(*^_^*)マークが2つも! ありがとうございます!

いや~良かった。こうも甘々が続くと、勝手にやってろよ、みたいに引かれてしまうかしら・・・(; ;)とちょっと思ってたんです。
でも今回のシリーズは、何だか向井先生がやたら大人で、包容力があるので、ゆったり甘々になってます。
長谷川先生は、まあ大体いつも不安定ですから(笑)、向井先生の精神状態にかかってるんですね~。

長谷川先生、はい、本人の自覚的には男です(大笑)
ムードとかは別に気にしないし、俺と仕事どっちが大事なんですか!? みたいな発想もないですが、でもいじった時の反応は乙女だよ~と長谷川先生に耳打ちしてあげたい。ククク。
というか、今回の「僕は男です」発言は、周囲の女性陣に対するライバル宣言というか差別化発言であるかのような気が。何かあったんですかね(^o^)

何かあったのかしらといえば向井先生ですよ。まるで新婚さんのようなこの態度。どうしたの!
しっかり餌付けしておかないと! みたいな、危機感を抱くようなできごとがあったんでしょうか(だとしても長谷川先生は気づいてませんね)。
それとも、こいつやっぱ可愛い! と再確認するようなできごと?(その場合もやっぱり、長谷川先生は気づいてないと思われます)
その辺のあたりを、向井先生のモノローグで語ってみて欲しくなりますね~。

コレの次のシリーズ、またしても白紙なんですけど、週末に余力があったら書きためたいな・・・でも自信ないな・・・
今度こそ不定期なるかもです。うわーん(><)
できるだけ頑張ってみます!
2014/07/25 【なか】 URL #hc9S4FeM [編集] 

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