ただ好きだという、この気持ち。

□ 今だけ在ればいい。 □

普通のことしか言ってない-4 「すごくいいよ」(2)

 ――おまえと一緒だから。
 だなんて、そんな耳打ちをするのは反則だ、と長谷川は思わずにいられない。そんなこと、あんな甘い声で囁かれたら誰だって、

「あー赤くなった。やっぱり乙女だなあ、おまえ」
 ハハッと笑われて、ますます頬が火照るのを感じる。だって今のは! と言い返すついでに抱擁を解き、ついでに向井のメガネをサイドテーブルに置いて身軽になってから、長谷川は再び向井を睨み上げる。
「というか向井先生、台詞クサすぎです。クサすぎてオヤジ入りかけてます」
「そうか? でもおまえ、好きだろ。こういうの」
「・・・好きじゃないですよ」
「無理するな。それに俺は好きだよ、そういうおまえのことが」

 ・・・だからそういうのは反則だって・・・!
 そう言おうとして、またも言えなかった。今度は肩をぐっと押し込むようにされ、ベッドの片方に座らされてしまったから。
 そのままどさりと押し倒されて、思わず、あ、と声が口をつく。
「まだベッド、くっつけてな・・・」
「いい」
「でも狭いです。それに明るいです」
「いいって。こうしてるだけだから」

 そう向井は言って、長谷川に半ば乗っかる形でぎゅっと抱きしめてきた。
 セミダブルのベッドは、男一人なら快適な広さだが、二人となるとかなり狭い。ベッドの上に留まっていようと思えば必然的にくっつき合うことになるし、そうなると必然的に――、
「・・・先生」
 長谷川は両手を挙げて向井の首を抱いた。身体を一直線に保とうとしたんだと後で弁解しよう、などと頭の隅で考えつつ、目を閉じる。
 それを待っていたかのように、向井の唇が降りてきた。
「ん・・・ふ、」

 向井の舌が、長谷川の口腔内でゆっくりと動く。いつものように、欲望のままにむさぼるキスではなく、あやすような、擦るようなキス。逆に我を忘れそうになる。向井の首を強く抱き寄せ、自らも舌を絡めてねだってしまう。
 もっと、あなたを、ください。と。

「・・・その表情」
 唾液の細い糸を引きながら離れていった唇が、微笑の形を描いたかと思うと、こんな言葉を吹きかけてくる。続けて頬を撫でられて、思わず喉が鳴りそうになるのをこらえ、長谷川は眼差しで問いかける。何・・・、
「そうやって俺を欲しがる時、自分がどんな顔してるか知ってるか?」
「・・・・・・」
 もしそれがからかうような口調だったら、反射的に虚勢を張っていただろう。でも向井の声はひどくやわらかくて、長谷川は瞬きするしか術が無くなる。
 そうして向井を見上げてしまう。頑是無い子供のように。
「すごく素直な顔。すごくいい。・・・すごく好きだ」

「・・・どうしちゃったんですか、向井先生」
 嬉しさを感じるより心配になって、長谷川は腕を引くと手のひらで向井の頬を包んだ。指先が勝手に動いて、頸動脈を辿る。
「具合、悪いんですか。熱は・・・」
「あのなあ」 
 向井が顔をしかめて、腕を突っ張り上体を起こす。そのまま長谷川の横に転がってきたが、やはり狭い。
「ちょ、先生、」

 そもそもセミダブルベッドの標準幅は百十センチか、せいぜい百二十センチだ。男二人で横になること自体に無理がある、と長谷川は強く思う。
「落っこちますから。先にベッド、くっつけましょう。ね?」
「嫌だ」
「なんでですか。狭いと危ないし暑いですよ。いいんですか?」
「良くないけど今は嫌だ。いいからじっとしてろ、落ちる」

 だから言ってるのに、と思いつつ、向井がきかないので仕方なくしばし押し合いする。その挙げ句に、ようやくのことで二人並んでベッドに収まって、それから。
 天井に視線を向けたまま、向井がぶすっとした口調でこう言った。
「で、先刻のあの反応は何だ? 俺がストレートにものを言うのはそんなにおかしいか?」
 えーと、その。困惑しつつも、何となく可笑しくなった。向井は怒っているんじゃないと判ったから。
 先生拗ねてるんですか、とつい言いそうになって、慌てて言葉をすり替える。
「おかしいですよ。心配になりますよ。急にいい人になったりして、もしかしてこのまま死んじゃうんじゃないかって――あ」

 そこまで言ってしまってから、急に我に返った。何言ってんだ俺、と、羞恥よりむしろ薄ら寒い思いに駆られて寝返りを打ち、向井に背を向ける。
「・・・済みません、今のは忘れて下さい。医者にあるまじき発言でした」
 全く、と長谷川は自らに向かって舌打ちせずにいられない。何なんだ今のは。ド素人の、それこそ乙女くらいが考えるようなことだ。この間から俺はどうかしてる。
 この人の傍にいると、どんどんおかしくなる。このまま死んじまいそうなのは自分なような気がしてくる。せめてこの人が冷静さを保ってくれていればいいけど、その箍が外れたら、際限なく引きずられてどうにかなってしまう。

 ――と、
 背後から腕が回されてきて、ぎゅ、と引き寄せられた。首筋に顔を埋められるのが判って、咄嗟に逃げようとしたが、そんなことをしたらベッドから転げ落ちる。
 自分だけならともかくこの人まで巻き添えにしたら、という思いに押しとどめられ、というより物理的に向井の腕に引き寄せられて、身動きが取れなくなる。
 そこへ、首筋を噛むようにしながら駄目押しの一言。
「差し当たり今すぐは死なないよ。急に善人になんかなってないからな。・・・試してみるか?」
 

 
 

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*お題配布元;【確かに恋だった】さま/エロくないセリフ5題/ありがとうございます♪ エロいことなんて、言ってないよ?で5話続く予定です。
 


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Date:2014/07/26
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2014/07/28 【-】  # 

* Re: koさまv

おかえりなさいまし~♪

今回は向井先生、愛の人ですから。ぐいぐいいきます(^o^)
「死ぬ前には改心して善人になる」という言い伝え(?)をうっかり口走ってしまった長谷川先生と、何を言われても可愛くて仕方ない色ボケ(←あっ)向井先生。

あ、でももうご存知の通り、次回は朝チュンみたいな感じになりました。たまにはいっか?(笑)
2014/07/28 【なか】 URL #hc9S4FeM [編集] 

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