ただ好きだという、この気持ち。

□ 今だけ在ればいい。 □

占い

「あっ、向井先生!」
 女性患者受けするのは長谷川の専売特許じゃない、と向井は、少々の対抗意識を交えつつも思う。
 もっとも長谷川は全年齢層に、しかも同性にも好印象を与えるようだが、向井の場合は、受けがいいのは10代後半から30代の女性患者に限られる。その年代以上及び男性患者は、向井の言動に煙たいものを感じるようだった。

 俺としては誰に対しても普通に接しているんだけどな、と向井は内心嘆息せざるを得ない。
 とにかく、患者との間に信頼関係を築くことができなければ治療に支障が出るので、向井としても相手に合わせて手加減をしているつもりだ。
 ・・・手加減、とかいってる段階で駄目なのかもしれない、とも思わないでもないが。

 目の前にいる患者は、向井受けする貴重な人種だった。つまり、17歳の女性患者。
 病名は急性胃腸炎。誘因は特に思い当たらないとのことだったが、抗生剤への反応も上々で、腹部エコーの所見からもこの診断で矛盾しないと考えられた。脱水症状がみられたため入院としたが、一両日中には退院できるだろう。
 そんな彼女の様子をみに病室を訪れた向井を、彼女は嬉々として手招いた。歩み寄りながら、調子どう? と訊いた向井に笑顔で答える。
「うん、もうお腹痛くないし、下痢も止まったよ。その代わり便秘っぽいけど。それよりさ、」
「便秘? いつから出てない? 便秘薬出そうか」
「えー、いいよ。出てないのは昨日からだけど、でもあたし元々便秘気味だし。それにあれだけピーピー出たんだもん、出尽くしちゃったよ。ってか、それよりさ!」

 彼女はもどかしげに向井を見上げ、口元をむずむずさせる。
 この年頃の女の子特有の、箸が転んでもってやつだ。
 彼女のベッドサイドにたち、向井は軽く首を傾げた。そんな向井に、彼女はわくわくした口調でこう言う。
「あのね、あたしの言うとおりにしてね。まず、両手をこう、見下ろす形で前に出して揃えて。そうそう。・・・じゃ、手の甲見て。次、手のひら見て。はい、爪見て。・・・あー!」
 彼女の言うとおりにした向井だったが、最後のところで手を引っくり返して甲を表に向けたところ、彼女は我が意を得たりと言わんばかりの声を上げた。
「やっぱり! 先生、Sだあ!」
「はあ!?」

 なんだそれ、と思わず目を剥いた向井に、彼女はアハハっと声をあげて笑った。
「占いみたいなものかな。友達に教わったんだ。あのね、爪見てって言われて、先生みたいに手ごと引っくり返す人はSなの。でね、こんなふうに指先だけ折り返す人はMなんだよ。先生、Sって当たってるでしょ?」

 ちなみにあたしはね、とか何とか言っている彼女には、申し訳ないが生返事を返して、向井は早々に病室を出た。
 占いとやらの結果に、納得したようなしかねるような、複雑な気分だった。一方で、馬鹿馬鹿しいと笑い捨てたい気持ちもあって、要は混乱していた。
 そりゃな? と向井は足早に廊下を歩きながら考える。SかMかっつったらSだと思うよ、自分でも。だけど二択ってちょっと雑なんじゃないか? 誰しも、両方の属性を持ってやしないか? そのどっちの要素が濃いかって話か? だとしたら俺はやっぱりSだって自覚はあるけど、ってなんでこんなにぐるぐる考えてんだ俺は?

「・・・かい先生? 向井先生!」
 と、その時。
 廊下の向こう側から歩いてきた人物に呼び止められて、向井は半ば無意識に足を止めていた。無意識の延長で、その人物の名を辿る。
「・・・長谷川」

「どうかしました? 今、凄い勢いで歩いてきてましたよ」
 誰か急変でも、と声をひそめて言い添えた彼を、向井はようやく我に返った思いで見やる。生真面目な表情で向井の答えを待っている長谷川に、まずは小さく笑いかける、
「いや、何でもない。ただ、今・・・」
 向井の中で頭をもたげた、それは悪戯心と呼ぶべきものだっただろうか。それとも興味?

「な、長谷川。ちょっと、こう、両手を揃えて前に出してみな。甲を上にして・・・そうそう。いいか、俺の言うとおりに動かせよ」

 こいつは、どういう反応を示すだろう? 雑な二択の結果もだが、それに対するコメントは?
 何故だかドキドキしながらも、向井は自分の口角が上がっているのを自覚する。対する長谷川は怪訝そうにしながらも、素直に向井の言うとおり手を差し出している。
「じゃ、・・・爪見て」

-end-



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Date:2014/06/21
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