ただ好きだという、この気持ち。

□ 今だけ在ればいい。 □

馬鹿がする馬鹿な恋(2)

 ――何度、偶然を装って声を掛けようと思ったか。

* * *

 馬鹿な話だ、と、自覚して最初に思った。
 こんな恋――これが恋と呼べるものならだが――、実る筈がない。
 幸か不幸か、中学・高校と私立の男子校に通っていたから、その筋の輩がどうやって恋情を伝えるのか、おぼろげには知っていた。
 というより、言い寄られて危うく背後を狙われそうになったことがある。その時に、自分はノンケだと思い知らされた。こういう行為にはそもそも無理があるんだ、とも。

 男と番うように出来ているのは女だ。人間に限らず、生き物の圧倒的多数がそういう構造になっている。
 女を抱くのは、だから楽だった。欲望のままに突き入れれば、受け入れてくれる湿地帯がある。その果てには、生殖という大義名分も用意されている。全てが自然だ。
 その点、男が相手だったら・・・

 思考はそこで止まる。どうすれば繋がれるのか、およそのところが判るだけに、俺の想いは行き先を失くして体内に滞り、循環を悪くする。
 それでも、触れたいという気持ちはこの時点から既に存在していた。
 髪を梳いて、シャープなあの頬を手のひらで包んで。色味の薄い唇に自分のそれを重ねて、強く吸って色を濃くして。硬質なラインを描く体躯を隅まで暴いて、唯一開かれた道に押し入って前立腺を捉えて刺激して。
 そうしたらあいつはどんな顔をして、どんな声で啼くだろう。

 見てみたい、と、単純に思った。
 そういうあいつを見てみたい。その表情も声も、きっと俺しか知ることのないものだ。そうやってあいつを俺だけのものにしたい、と。
 ・・・馬鹿な話だ、とまた思った。
 こんな欲望が受け入れられる筈がない。第一、俺はノンケなんじゃなかったのか? 無理強いされかかった学生のあの時と今とどう違う? 
 ただ確かなことは、あんなことをしたいのはあいつだけだということだった。
 他のどんな女でも、まして男でもない。
 長谷川だけ・・・あいつだけだ。

 そんな俺の欲望になんか、長谷川はまるで気づかない。
 綺麗なままの真っ直ぐな瞳で俺を見上げ、穏やかな声で俺を呼ぶ。向井先生、と。
 だがそれは俺じゃなくても、誰に対しても向けられるものだ。
 あいつが談笑しているところなんか見かけようものなら、闇雲に割って入りたくなった。でなければ、呼びつけたくなった。偶然を装って、いいところで会ったというような顔で、そういやあれはどうなった、なんて今じゃなくてもいいような用件で、それでも長谷川の視線を俺に向けさせたくなった。

 そしてそのたび、自己嫌悪にかられた。
 実際、こんなに独占欲が強いとは、自分でも知らなかった。
 いや――あいつだから。あいつが相手だから・・・。

 とにかくこの理不尽なまでの衝動は、長谷川に対してだけ発動する。
 そのことは嫌というほど思い知らされた。押し殺すほどに強くなっていくことも判っていた。でもだからといって、どうしようなかった。

 ただ、捨てることは考えなかった。
 いっそぶちまけて全て壊してしまえば楽になるのか、という誘惑には時に駆られたが、そうしたところでこの想いが息絶えるとも思えなかった。
 代替がきくものじゃない。
 駄目なら他を探す、というようなことは、今度ばかりはできない。
 ・・・もう一生独りだな、と自嘲したつもりが、それは随分と清々しい感触を残したのを覚えている。
 それでいい、と思った。
 あいつと居る、今のこの時間だけが在ればいい、と。
 
 

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*お題配布元;【確かに恋だった】さま/遅過ぎた初恋を語る長文5題/ありがとうございます♪適宜抜き書きで5話の予定です。
 


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Date:2014/07/31
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2014/07/31 【-】  # 

* Re: koさまv

(*^_^*)マークありがとうございます♪

や、嬉しいです、長文コメント! いやもうホントに! 
拍手もですけど(うわ~ん、いっぱい!嬉しい~~)コメントも、次回シリーズ更新のエネルギーと直結してますので、是非がんがんお願いします(^^)

さてさて。
おほほ、読み返しの旅に出て頂いたとか♪ 嬉しいです♪♪
いうか、そうですね~、もうそんなくらい過去ログが溜まったんでしょうかね(^o^)早いもんだ~。
向井先生のモノローグも、楽しんで頂けてるようで良かったですv
学術書みたいなのにエロい、ってうわー嬉しい(〃ω〃)
まさにそれを目指していたので、っていうか勝手にあんな語り口になったんですけど、でもそうなってたらいいな~と思ってました。えへへ。

で、そう、向井先生ね。過去に実は疑似体験があった・・・というか、でないといきなりヤれないだろうと←済みません。
でも学生当時のその事件、向井先生もですけど、言い寄った相手の人も悲惨なことになっただろうな・・・。
相手の人、トラウマになってなきゃいいんですけど。
向井先生はね、その点ドライですから、スパッと割り切って(というか、切り捨てて)たんでしょうけど。長谷川先生への自分の想いごと。
だけど、ふふふ、そうなんですよ。飛んで火にいるなんとやらです。明日向井先生もそんなような述懐をします(^^)

男同士って通常、叶わないことが前提になってる(気がする)ので、相手の好意も「そんな筈ない」って自己否定しちゃいそうだし、想いが通じてからもいつ壊れるかってぐるぐるしそうだし(取りあえず長谷川先生は、ね~、ご覧の通りです)。そうそう、純粋ですよね。
想い想われているこの瞬間自体が僥倖みたいなもんだ、という意識がある気がします。
壊れる瞬間がきても、それをそのまま受け入れるというか。
そういうの、最初から考えながら書いてましたので、何か感じるものがあったとしたら最高に幸せです(^^)

わ~私もリコメ長っ(笑)
あ、本館の方もありがとうございます♪ 繁忙期に入って、週末も休めるかどうか微妙なので、明日から2分割作戦でいこうと思ってます。
別館は分割せず更新しますので、本館・別館ともに是非またお越し下さいねv

2014/07/31 【なか】 URL #hc9S4FeM [編集] 

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