ただ好きだという、この気持ち。

□ 今だけ在ればいい。 □

星屑が降ってくる(12)

「・・・傘を持って迎えに来てくれたのか?」
 呆れたような向井の口調。だが、濡れて束になった前髪の隙間から覗く瞳は、ひどく優しい笑みを湛えていた。
 たったそれだけのことで、長谷川の胸は簡単にいっぱいになってしまう。何も考えられなくなる。目の前にずぶ濡れで立っている、向井のこと以外は何も。

「・・・先生、メガネは」
 どうでもいいようなことを訊いてしまったのは、多分そのせいだ。
 だが向井は律儀に、それに答える。長谷川と同じ傘の下に入りながら。
「この雨の中、走ってきたから。メガネなんかかけてると却って危ないだろ」
「だから何で、雨の中、走って・・・それに、今から電車に乗るところだってメールで、」
「ああ、そうだったんだけどな。でもおまえからの返信、なんか微妙だっただろ。それでピンと来て、電車に乗るのはやめて引き返してみたら、案の定だ」

 微妙って、と、未だに現実に馴染みきれずに口ごもる長谷川に、向井は解説してくれる。いつもの、淡々とした口調で。
「俺の居場所を訊いてきた割に、自分が今どこにいるのかは言わなかったし。『気をつけて帰れ』っていう言い方も、なんか変だったし。俺には言いにくいようなところにいるんじゃないかと思った。あとはおまえの性格と行動パターンを考え合わせれば、おおよその予測はつく」
 見え透いてるんだよ、と言って、向井は笑う。
「ま、外れてたら、今度こそビニール傘を買って、おとなしく帰ればいいいだけの話だしな。・・・これ、俺のだろ」

 よっ、と手を伸ばして、向井は長谷川の左手からもう一本の傘を取った。ぱちんと音を立てて開くと、そちらへと自分の身を移す。
「おとなしく、って先生、そんなびしょ濡れで電車に乗るつもりだったんですか。大体いつからそんなに濡れてたんですか。ここに引き返す前からですか?」
 同じ傘の中から向井が出ていってしまったのが寂しくて、長谷川の口調はつい、駄々っ子のそれになる。それが判るのか、向井の口調は淡々としているようでいて、どこか甘やかすような響きを伴っていた。

「ホームまでは濡れてなかったんだよ。車通勤の同僚に駅まで乗せてもらったから」
「・・・それにメガネを外して走ったりして、前は見えてたんですか」
「結果的には大丈夫だった。転んだりもしてないし、誰かにぶつかったりもしてない。だからオーライだ。・・・肝心なものはちゃんと見つけたしな」

 納得したなら帰るぞ、と言われて、長谷川はようやく現状を把握した。途端に、向井がずぶ濡れなことで頭がいっぱいになる。
「帰る前に、病院に寄って着替えて下さい。この際、術衣でも何でもいいから。タオルも借りて、ちゃんと拭いて。その後はすぐタクシーで帰りましょう。部屋に着いたら僕、すぐに風呂の支度をしますから」




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Date:2015/11/19
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