ただ好きだという、この気持ち。

□ 読み切り □

スローバラード(5)

 よく覚えている。最初のコマで進藤がまず口にしたのが、呼び方だった。
「その、……なんて呼んだらいいのかな。飛鳥、先生?」
 左の手のひらで飛鳥を示すようにしながら尋ねられたのだが、その質問の内容よりも左手の美しさに注意が向いた。長くてしなやかな、五本の指。

「……あ。いえ、先生はナシで、普通に」
 気づいたら飛鳥は進藤の左手をじっと見つめていたので、余計にバツが悪かった。
 強めの口調になってしまったのはそのせいで、ポリシーとかそういうものがあったからじゃない。
 現に、こんなふうに尋ねられれば「さん付けで」と答えるけれど、問われない限りは向こうが呼ぶに任せている。一応一度は、「先生付けじゃなくていいですから」とやんわりと言うことにはしているが。

 でも、進藤から「飛鳥先生」と呼ばれるのは嫌だった。
 何故かくっきりとそう思って、そんな自分にどぎまぎした。
「えーとその……医療機関内で先生と付くのは医師だけですから」

 俺は今、誤魔化した。それは自分でも判ったが、何を誤魔化したのかはよく判らなかった。 ただ、耳たぶがひどく熱かった。
 うわー、俺きっと赤い顔してんな。そう思って、できるものなら顔を背けたかったが、そうもいかなくて。
 飛鳥はただ、視線を逸らした。その刹那、進藤の戸惑ったような表情が視界を横切って、ますます耳が火照った。
 なのに、

「そっか。判った。じゃ、飛鳥さん、で」
 進藤がそう言って笑ったから。くしゃりと目尻に皺を寄せるようにして、正面からの笑顔を見せたりしたから。

 やばい、と思ったけれど、もうどうしようもなかった。
 止めようとするほどに、どうしようもなくなった。
 彼へと傾斜していく心を一度自覚すると尚更。
 どうしよう。
 強くなっていく日差しと足並みを揃えるようにして、想いばかりが降り積もっていく。どうしよう。ただそれだけを、日々、思った。

 ……好きになってしまった。
 



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Date:2015/12/04
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