ただ好きだという、この気持ち。

□ 読み切り □

スローバラード(19)

 気になっていることがあった。
 実家にはもう居場所がない、という進藤の言葉。
 でも、と飛鳥は思う。たとえば家族の側の意見は違う、かもしれないし。
 もう進藤は早々外出もできなくなると、飛鳥には判っていた。だからこそ躊躇ってしまう。本当に、家で過ごさなくていいんだろうか。

「ん? ああ、平気。ていうかあれだよ、別に家族断絶とかじゃないんだよ?」
 と進藤は言う。
「産みの母親は俺が十一歳の時に癌で亡くなってさ。十三の時、父親が再婚して新しい母親と弟がいっぺんにできて。弟はね、二つ下。よくある話だよ。それなりにゴタゴタしたけど、まあ、俺もこんなになっちゃったし。結局、金の面倒は父親にみてもらうしかなくなった。洗濯物なんかは母親がしてくれてるし。それに藤堂先生が話があるって言えば、両親で来てくれるしね。弟も時々見舞いに来るよ。……あ、今度の外泊の件も、」

 両親には内緒なのだと、進藤は悪戯小僧の顔で笑った。
「実際、実家に帰っても気まずいだけで、却ってしんどいし。でも病院的には、家族付き添いの元で、みたいなのがあるでしょ? だから送迎だけ弟にしてもらうことにした。で、あとは自由時間。これでバッチリ」
「はあ……」
 弟さんはそれで納得したのかなあ、と飛鳥は思ったのだが、口にはしなかった。ただ、当日は雨が降らないようにと祈った。

 そして外泊日当日。
 飛鳥が自室の窓という窓に提げたてるてる坊主の効果あってか、晴れた。じき梅雨も明けるのかもしれなかった。日差しにはもう夏の気配があったが、空気は湿度をたっぷり含んで重かった。
「あ、どーも。弟のヒサノリっす」
 待ち合わせは午後一時、ピアノ教室が入っている楽器店ビルの前。横付けにされたタクシーから、進藤に続いて降りてきたのはえらく背の高い男で、文字通り上から飛鳥をじろじろと見下ろしてきた。しかも、

「アスカさん? え? あんたが兄貴のカノジョ?」
 などと不躾な口調で訊いてくるから、飛鳥としては真っ赤になって絶句するしかなかった。いや、絶句してちゃ駄目だろう、と飛鳥は自分を鼓舞する。ここは否定しないと!

 だがそんな暇はなかった。

 


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Date:2015/12/18
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