ただ好きだという、この気持ち。

□ 読み切り □

スローバラード(22)

「や、でも!」
 咄嗟にぶんぶんとかぶりを振ってしまったのは当然ではないかと飛鳥は思う。だって、……だって、
「そんな、無理です! 俺まだ、黄バイエルの二曲目なんですよ!? しかもしばらくサボってたから、指もますます動かなくなってるし!」
「それを言うなら俺だって、半年以上ピアノに触ってないよ。いいからおいでって。大丈夫だから」
「…………」

 おずおず、と飛鳥は進藤の右側に座った。進藤は飛鳥と視線を合わせて小さく笑う。それから。
「きらきら星、弾ける?」
 尋ねられて、飛鳥はぱちぱちと瞬きをした。
「えと……きーらーきーらーひーかーるー、ってやつですか」
「そうそう。おーそーらーのーほーしーよー……弾けそう?」
「あ……多分」

 出だしのところの後半を歌ってくれた進藤に促される形で、飛鳥はそろそろと右手を挙げた。鍵盤に指を下ろし、メロディを辿る。ド、ド、ソ、ソ、ラ、ラ、ソ。ファ、ファ、ミ、ミ、レ、レ、ド。
「そうそう。そのまま続けて」
 進藤の左手がスッと動いて、飛鳥の奏でるメロディに和した。ソ、ソ、ファ、ファ、ミ、ミ、レ。ソ、ソ、ファ、ファ、ミ、ミ、レ。
「うん、いいよ。テンポ変えずに、ゆっくり弾き続けて」
 ド、ド、ソ、ソ、ラ、ラ、ソ。ファ、ファ、ミ、ミ、レ、レ、ド。
「じゃ今度はスキップしてみようか。こんな感じで」

 そう言うと進藤は、ワンフレーズ先に弾いてみせた。ドドット、ソソッソ、ララッラ、ソソッソ、
「こうですか?」
 追いかけて飛鳥も鍵盤を叩く。ファファッファ、ミミッミ、レレッレ、ド。
「そう。そのまま最後までいこう。……じゃ次は前半分に体重かけて」
 ドードド、ソーソソ、ラーララ、ソーソソ、ファーファファ、ミーミミ、レーレレ、ド。
「最後までいったら、今度はまた最初のに戻して。ずっと弾いててね」
 ド、ド、ソ、ソ、ラ、ラ、ソ、
「……ふぁっ!?」

 思わず飛鳥は声を上げてしまった。それまでずっと、飛鳥と音を揃えて弾いていてくれた進藤の左手が、急に鮮やかに踊り出した。
 追っている旋律は同じ「きらきら星」なのに、飛鳥が一音弾く間に五本の指が二回転くらい動いて、目映いばかりの音楽が流れ出す。
「はい、指止めない。続けて」
 進藤は穏やかな微笑を浮かべたままだ。ズンと響く一瞬の重低音、きらびやかな装飾音。高くジャンプし、空中で笑い、着地して、また飛鳥の手を取って歩き出す。合間に耳元で囁かれる、進藤の優しい声。
「繋留音、……三連符、……十六分音符、……半音階」
 綺麗だ、と思った。鍵盤の上を滑る進藤の左手。鍵盤を正確に捉え、ピアノとともに歌うその指。音の粒が見えるような、そのひとつひとつが輝くような。それでいてどこまでも優しい音楽。
 ……進藤のピアノ。

 いつしか飛鳥は、進藤にぴったり寄り添っていた。
 自分の左手は最初は膝に置いていた。なのにいつしか椅子に後ろ手をつき、そして、気づいたら進藤の腰へと回っていた。支えるように。……体温を、感じ取ろうとするように。

 幸せだった。
 天国にいるみたいだ、と思った。




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Date:2015/12/21
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