ただ好きだという、この気持ち。

□ 今だけ在ればいい。 □

白衣シンドローム(4)

「病院が好きな子じゃないので、来るかどうかが何よりも心配ですよ」
 つけつけとした言い方になってしまって内心反省したが、向井は気にならなかったらしい。ふ、と目元を和らげるように微笑って、長谷川の肩をぽんと叩く。
「病院と縁がないに越したことはないよ。・・・優莉ちゃんにもう一回電話でもしとけ」

 だからその、優莉ちゃんっていうのやめてもらえませんか。
 すんでのところでそう言いかけて、慌てて言葉を飲み込む。はい、とだけ、何とか口にした長谷川に、向井はもう一度短く笑って付け足した。
「胃カメラの時、俺もできれば顔出すから」

 これって物凄いVIP待遇だぞ、と長谷川としては念を送らずにいられない。こら、判ってるのか、優莉め。
 これですっぽかしたら呪う、とも思いつめていたのだが、長谷川の懸念に反して優莉はちゃんと来院していた。というか、向こうから長谷川を見つけてくれた。
 消化器内科前のロビーに行ってみると、ソファの隅っこに居心地悪そうに座っていた女性――というよりは女の子という印象だったが、ともあれその人物がぱっと顔を明るくして立ち上がったのだ。
「ひろくん! わあ、全然変わらないね! すぐ判った」

「・・・優莉ちゃん?」
 取りあえず近づきながら、長谷川は彼女の全身を一瞥でチェックする。ロングヘア、背は百六十五センチ前後、プロポーションまずまず、・・・顔立ちもまずまず。可愛いというより美人系。
 ちっ、と内心舌打ちがもれる。これはひょっとすると、向井先生の好みのタイプかもしれない。

 しかし当の優莉は、ポーッとした表情で長谷川を見つめている。
 取りあえず得意のアルカイックスマイルを浮かべ、座るように促すと素直に座ったが、まだ仰向いて長谷川を見つめているので、長谷川は首を傾げた。
「どうした? ああ、受付済ませた? 食事もしてきてないよね?」
「うん、今朝はお水しか飲んでない。保険証も先刻、そこの受付に出したよ。・・・ね、今日の検査、ひろくんがしてくれるの?」
「いや、俺じゃなくて消化器内科の先生が。専門家だから安心してていいよ」

「えー? ひろくんにして欲しいなあ。ひろくんなら痛くしたりせずに、優しくしてくれそうだもん」
 おねだり口調でそう言われ、長谷川は目を瞬いた。ええと、と内心で呟く。公衆の面前で、妙な言い回しをしないで欲しいんだが・・・。現に、ソファに座って順番を待っていた患者たちの視線がこっちに集中しているのを痛いほど感じる。勘弁してくれ。

 しかし、そう、ここは公衆の面前であるので、長谷川は更にアルカイックなスマイルを浮かべて、優莉を躱そうと試みた。
「大丈夫だよ、鎮静かけてもらうようお願いしておくから。痛くないし怖くもない。それに俺も一応ついてるから。先輩の先生も来てくれるって言ってたし」
 長谷川が一番力をこめた、先輩の先生も云々というところを、優莉はまるで聞いていないように見えた。ポーッとした表情に戻ると、こんな台詞を口にしたりする。
「ひろくん白衣似合うね。どうしよう、ほんとにドキドキしてきちゃった。・・・ね、イトコって確か、結婚できたよね?」
「はっ!?」
 

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Date:2014/08/07
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2014/08/07 【-】  # 

* Re: koさまv

(*^_^*)マークありがとうございます♪

風邪は順当な経過を辿りつつあります。どうしてひととおり悪くならないと治らないんでしょうね。ってそんなの私だけ?
でも前回みたいに、彼岸が見えるということはないので、大丈夫です(^^)
koさまからいただいた念の力も借りて、何とか早く治したいと思います~。

さてさて、出ました、優莉ちゃん。
司先生が施行医で、長谷川先生と向井先生が揃い踏みで供覧。
VIPですよね! それなら私だって胃カメラ我慢する!(ってウソウソ・笑)
しかし優莉めは、そのありがたさをちっとも判っていない模様です。
意外に一途といいますか・・・でも失恋したてなのに新しいラブを見つけているので、たくましいともいえますが。
ま、女ってのはたくましいものです!
これから長谷川先生と向井先生はちょっと大変です(´・ω・`)
2014/08/07 【なか】 URL #hc9S4FeM [編集] 

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