ただ好きだという、この気持ち。

□ 今だけ在ればいい。 □

白衣シンドローム(9)

 こんなのはきっと悪い夢だ。何度も何度も、長谷川はそう思おうとした。
 あんなに言葉も、それに身体も重ねて、好きだという気持ちを確かめ合ってきたのに。
 ポッと出の従姉妹に、あんな無責任で軽い告白をされたからって、たったそれだけのことで壊れるような、そんなものだったのか?

 ・・・そうだよ、という内側からの声には、必死で耳を塞いだ。
 もともと、気持ちだけで繋がっていたんだ。片方の気持ちが折れたら、それで終わるんだ。
 おまえだって判っていただろう?
 判っていて、それでも、今だけでいいなんて豪語していたんだろう?
 その「今」が終わったんだよ。それだけのことだ。

 そんな自分の内なる声に反駁するだけで精一杯なのに、周囲からの追い打ちは更に厳しく長谷川を追い詰める。
 別にナースたちに悪気はない。それは判る。多忙で慢性疲労が蓄積している職場では、他人の恋バナが何よりのご馳走だということも理解はできる。このテの噂は猛スピードで伝播するものだということも。
 だけど違うんだ。そこのところを、長谷川としては強調したい。なのに、「長谷川先生の可愛い従姉妹」の熱愛発言はあっという間にナースたちの間に――被害妄想的にいえば病院中至るところに――知れ渡ってしまった。

 以来、優莉ちゃんはその後いかがですかとあちこちのスタッフステーションで訊かれる。そのたびに長谷川はこう強弁した。
「大丈夫に決まってるでしょう。大体、咽頭喉頭異常感症ってのは器質的異常なしという意味ですよ? 大丈夫じゃないわけがないじゃないですか」

 だからその後の経過なんて、ましてどうしているかなんて知らないし、知ってなきゃいけない義務もない。
 長谷川としてはそう言ったつもりだったし、現に、優莉から毎日入る着信にも一切応えなかった。しかし、どう言っても「長谷川先生照れてるー」で片付けられてしまう。苛立ちが募った。
 並行して向井との距離は開くばかりだ。ついには近衛にこう訊かれるに至って、とうとう長谷川は爆発した。
 唯一幸いだったのは、それがロッカー室で、他に人がいなかったことだ。・・・いなかった、と思う。そこまで天も意地悪じゃないと信じたい。

 ともあれ。
「優莉ちゃん、どうしてる? まあ、長谷川先生がついてるから大丈夫だとは思ってるけど」
 近衛の声音はあくまでもにこやかで、揶揄も何も含まれていなかったから、余計にカッときた。気づいたら長谷川は、こう言い返していた。叩きつけるような口調で。
「僕には他に好きな人がいるんです。優莉の検査の時も一緒にいた人です。この噂のせいでその人にも誤解されて、僕はどうすればいいのか判らないのに――なのに近衛先生までそんなふうに言うんですか!?」
 


→ BACK
→ NEXT




*拍手クリックで御礼SSに飛びます。
ぽちっと楽しんでいってくださいませ♪

*このお話が気に入ってくださった方はこちらも是非ぽちっと♪
ありがとうございます、大変励みになってます!

*    *    *

Information

Date:2014/08/12
Trackback:0
Comment:2

Comment

* 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2014/08/12 【-】  # 

* Re: koさまv

あらら、今回校正ミスが多かったですね(><)
隠しきれない疲れがこうして噴出していると思われます(泣)
明日以降も、ミスに気づいたら教えて下さいネ~←ミスを抑えようという気がないのか(苦笑)


そして今日は (^O^)マークv ありがとうございました♪
はい、言っちゃいましたよ。もー、どうするのかしら!
向井先生も、しばらくは放置プレイになるので(だって、向井先生が長谷川先生を避けてる=接点がなくなる=小説上に登場しない、となるので)、気がかりなところです。
明日もどうぞ、寄ってやってくださいませm(_ _)m
2014/08/12 【なか】 URL #hc9S4FeM [編集] 

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://kisschoko.blog.fc2.com/tb.php/63-f439d1a5
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)