ただ好きだという、この気持ち。

□ 今だけ在ればいい。 □

白衣シンドローム(11)

「・・・あ、興味本位で訊くわけじゃなくて」
 注文が一段落したところで、近衛がこう言いながら長谷川へと視線を寄越した。ちなみに配置は、長谷川が壁際で近衛が他の客と隣り合う位置だ。・・・意図的に、自分を奥にしてくれたんだろうなと長谷川は思った。

 そういう人なんだ、近衛先生は。今だって生真面目な口調で、こんな台詞を口にしてる。
「その人と微妙になってるなら、その人と話す時も優莉ちゃんのことは口にしない方がいいだろ。無自覚に傷つけたりとか、したくないし」
 向井先生を傷つけたくない。長谷川の中でそう意味を結んだ瞬間、今度こそ本当に視界が滲んだ。
 涙になってこぼれるに至らなかったのは、たた単にその瞬間に店員がビールのジョッキと枝豆の皿を持って来たからにすぎない。

 というか、それで涙を反射的にこらえることができるなんて、結局俺は他人の目を気にして生きてるんだな。そう思うと、新たな自嘲が胸に満ちた。
 あのひととあんな恋をして、それがこんなにも脆いものだったと思い知らされて、このまま終わるのを見ているしかなくて。
 それでつらくて悲しくて気が狂いそうなのに、それでもまだ他人の目が気になるのか。

「・・・誰にも内緒にしてもらえますか」
 だが、気づいたら長谷川はこう言っていた。ジョッキを合わせることも思いつかず、ただひんやりした感触のその持ち手に両手ですがりついて、近衛の顔を見ることもできずに、それなのに口走っていた。
「あ、それは僕の保身のためじゃなくて。相手の人に、――あのひとに、迷惑がかかるから。僕と恋愛してるなんてことが、もしも周りに知れたら」

「長谷川先生はそんな、恋愛相手として恥ずかしい人じゃないと思うけどね。でも約束するよ。絶対、誰にも言わない」
 近衛も特に乾杯にこだわる様子はなく、自分の分のビールを先に一口飲んだ。それから、静かに促した。言うだけでも楽になるから、と。
「・・・向井先生です」

 そして、長谷川はぽつりとその名を口にした。
 と同時に、止める暇もなく涙が、ジョッキを掴んだ手の甲へと落ちた。
 一滴だけ、ポツ、と。
 


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Date:2014/08/14
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2014/08/14 【-】  # 

* Re: koさまv

ああ、(@_@。マーク・・・ついにこんなのを使わせてしまいました(><)

切ないですよね、長谷川先生。ついでに(←ついでか!)向井先生も。
切なさ前線、じわじわと上昇中です。
そんな中、明日も司先生がいい味を出してきます。
ホント、どうして司くんに彼女ができないんだろう。
きっとすごく大事にしてくれると思うんだけどなあ。

本館と別館の原稿は、ほぼ交互に書いてる感じです。
どっちかに煮詰まってきたら、もう片方のを書く、という(笑)
それゆえのこのバランスかもしれないですね~。
確かに、ここからしばらくは、別館→本館の方がお勧めかも。
別館の荒れ模様は、まだまだ続く予定です。
うおー、私も早く全部書いてスッキリしたい!
頑張ります!(`・ω・)
2014/08/14 【なか】 URL #hc9S4FeM [編集] 

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