ただ好きだという、この気持ち。

□ ごめんなさい大好きです □

魔法のスイッチ(5)

「親父の腰はギックリの寸前、ってトコらしくて、しばらく安静にしてれば大丈夫って整形の先生が。で、一人息子にして唯一の家族である処の俺が店番に駆り出されたってわけです。あ、俺、学っていいます。勉学の学って書いて、オオシマ・マナブ」
 そう言ってから、彼――学は笑った。
「字面だけ見たらどこのじいさんかって感じでしょ。でもレッキとした平成生まれですよ。この名前、あの親父がつけたんです。ガッコの名簿でも、いつも滅茶苦茶浮いてました。このセンス、あり得ないですよ。・・・えっと?」
「ああ、近衛です。そこの病院の勤務医です」

 そう答えてから、司はふと苦笑した。
「そういうのは、口で言ってないでここに書けばいいんですよね」
 次いで、今度こそ手元に視線を落としたのだが。
「いえ、自己紹介、嬉しいです。近衛先生の声、話し方も、聞いててすげえ気持ちいいから」 

 さらっとこう返されて、司は一瞬、言葉の意味を掴み損ねた。いや、意味は理解したのだが、学の真意がまるで判らなかった。
 だから取りあえず注文書を仕上げ、ボールペンを学に返しながら、曖昧に微笑んだ。
「・・・そう?」
「はい」

 一方の学はというと、司が差し出した注文書を両手で受け取りながらじっくりと眺めている。何か不備でもあったかと司が不安になりかけた時、学がふっと視線を上げた。
 その眼差しがやけに熱っぽかった気がして、司が瞬きをした瞬間。
 学の表情がふわりと緩んだ。こんなふうに笑うと、大島の面影がくっきりと浮かび上がることを発見して、司はもう一度瞬きをする。それから思う。親子なんだもんな、当たり前なんだ。背は息子の方が随分と高いけど。
 
「近衛先生、ご専門は・・・消化器、ですか」
 司とほぼ同じ高さの位置から、学は視線を返してきた。次いで、こんな問いも。本のタイトルから推察したらしい。
 というのは判ったが、自分がここから立ち去らないでいる理由は、司には判らなかった。
 本の注文という目的は果たしたわけだから、じゃあ宜しくとか何とか言ってさっさと出ていけばいいのに。
「外れてたら済みません。でも、外科じゃないでしょ? 内科ですか?」
 彼も彼だ。どうして会話を続けようとするんだろう。
 そうも思ったが、結局は好奇心の方が勝った。司は唇の端を上げ、こう答えた。
「当たり。消化器内科で専門は大腸。・・・でも何でそう思った?」

 というか、何故外科じゃないと思ったのか。余程俺は不器用そうに見えるんだろうか、とも思ったが、そんな司の思考もどうやら学には筒抜けだったらしい。違いますよと言いたげに笑ってから、彼は言った。
「何となく、かな。内科の先生ってよく話を聞いてくれるというか話しやすいというか、って俺の勝手なイメージなんですけど。家族の病気のことまで覚えてて、最近お父さんの腰どう、とかって声かけてくれる、みたいなね。近衛先生はそのタイプだなと思って。ってか、むしろこっちからいろいろ話したくなりますよね。近衛先生には」

「・・・だったら嬉しいけど」
 取りあえずこう返したが、嬉しい、というこのフレーズには随分と実感がこもってしまったのが自分で判った。照れ笑いと自嘲が半々の笑いがこぼれそうになったのを、司はこんな台詞で紛らわす。
「でも、きみは医者と縁のない生活をしなきゃね」




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Date:2014/10/14
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