ただ好きだという、この気持ち。

□ 今だけ在ればいい。 □

ワンダフルライフ(107)

「・・・遅くなっちゃいましたね」
 結局、長谷川家を辞去した時には午後三時を回っていた。
 これから電車を乗り継いで戻り、その足で病院に直行したとしても午後五時は過ぎる。回診どうします、と長谷川が訊いたら、向井は事も無げに、行くよと答えた。おまえもだろ、と続けて返され、長谷川も笑って頷く。

 でも、と向井は更に、こう続けた。
「その後でまた待ち合わせて、一緒に帰ろう」
「・・・そう言ってくれると思ってました」

 ますます笑み崩れながら長谷川が答えると、向井も微笑った。
 駅までの道のりもその後も、往路と同じルートだとは思えないほど短く感じられるのが、可笑しくも嬉しい。
 実際、こんな会話をやりとりしているうちに戻ってきてしまった、というのが実感だ。

「向井先生、すごくかっこよかったです。惚れ直しました」
「それは丸ごと俺の台詞だ。・・・ありがとな、助けてくれて」
「え、そんな、助けるとかそういうんじゃ、」
「それでも、ありがとう。助けられたよ、すごく。過去のおまえにも、現在のおまえにも」
「・・・こちらこそ、ありがとうございました。先生を好きになって良かったって、物凄く思いました」
「ん? そういう台詞、初めて聞いた気がするぞ。何でこんな奴を好きになったんだろうってのは馴染みがあるけど」
「そっ、れは、先生が意地悪・・・とにかく、ごく限定的な場合にしか言ってません! あっそうだ、忘れないうちにお願いしておきますけど、いつか僕も連れていってくださいね。向井先生のご両親の元へ」
「あー、うちなあ・・・うん、まあ、いつかな。それより、昼メシの時に聞いた暴露話、面白かったな。やっぱりなって感じで」
「って、優莉のあれですか? そんな気はしてましたけど、あの日僕らが帰った後で洗いざらいぶちまけてたんですねえ。あいつとの『約束』はもう、金輪際信じません」
「まあ、そう言うなって。おかげでお義姉さんたちもすっかり絆されて、ご両親への根回しも万全だったじゃないか」
「・・・向井先生ってほんと知能犯ですよね。もしかして、アルバムを持って帰ればって言われたのを断った時の、あの殺し文句も何かの策略ですか?」
「・・・おまえ、ほんとに俺に惚れ直してくれたのか? 策略じゃねえよ、本気で思ったんだよ。おまえの未来を貰っちまうのに、過去まで持っていくわけにはいかないって」

 かくて、いつもの街に着いた時には、陽は既に落ちていた。
 灯り始めたネオンの中、一旦向井と別れて自院へと歩き出してもなお、長谷川の口元からは微笑が消えなかった。

 全く、と思う。俺の未来を貰うのに過去まで持ち去るわけにはいかないって、まるきりジゴロの台詞だ。カッコ良すぎて、一生忘れられそうもない。
 足は止めずに、頭上へと視線を投げる。この暗い夜空がつながるところにいる両親へと、思いを馳せる。
 そうして長谷川は心に決める。次に帰省した時には、ちゃんとありがとうと言おう、と。

 ありがとう、俺を生んでくれて育ててくれて。だからこそ俺は、向井先生にも出逢えた。
 ありがとう、向井先生を受け入れてくれて。それは俺自身をも受け入れてくれたことと同義だって、父さんと母さんは気づいてる?
 
 ありがとう。今日のあのフラットな状態にまで持っていくのは、本当は難しかっただろうに。頑張ってくれて、本当にありがとう。
 お礼に、何度でも持っていくよ。一番いい芋焼酎と芋羊羹を。


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Date:2018/05/28
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2018/05/28 【】  # 

* Re: ちょーっとキザだけどね~(^^;)

hちゃんこんばんは~♪

そうだねー、わざわざ調整のためにはメガネ屋行かないねえ(´・ω・`)
なんかのついでとかならね、いいんだろうけどもー。

でも、なるほどな、使ってるうちに横に・・・ふむふむ、そんな感じよ!
ぞんざいに置いたり落としたり踏みそうになったり、いろいろしてるしねえ。
長谷川先生がこのことを知ったら、向井先生のメガネのマネージャーと化して、定期的にメンテナンスしなはゃとか言い出しそうだ(^o^)

さてさて、今日は「お互いに惚れ直し合う2人の回」でございました♪
向井先生のあの台詞、ちょっと、というよりかなりキザだと思うのですが(^o^;)、ちわわ及び長谷川両親はもう、きゅーん(☆。☆) ってなったんだろーねー☆

ま、アルバムは長谷川家に置いておいて、それを見たさに通うがいいさ(^^)
つっても2人とも忙しいから、お盆とお正月くらいかなー。
でもまあ、2人で帰省できる場所ができて、良かったよね(^ω^)

というわけで、in長谷川家のターンは今日でようやく終了です♪
明日からは新婚モードに戻りますので、お楽しみに~(^o^)/
2018/05/28 【なか】 URL #hc9S4FeM [編集] 

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