ただ好きだという、この気持ち。

□ ごめんなさい大好きです □

魔法のスイッチ(14)

 そんなことないよ。
 嘘でもそう言うべきだと思った。
 でも今度は、言えなかった。

 かといって他の言葉も言えなくて、だから長谷川がこう言って立ち上がるのを、司はただ視線で追うことしかできなかった。
「今度は僕の番なんです。・・・今夜、あの鉄板焼き屋でお待ちしてますから」

 番って何だ、と、半ば文句をつけるようにして司は思う。今夜? 随分強引なんだな。長谷川先生ってそんな性格じゃなかった気がするけど。
 たちまち、すっかり食欲がなくなっちまったじゃないか。時間ももうないし、今日の昼飯は味噌汁だけになりそうだ。どうしてくれるんだよ。

 ともあれ。
 この時に考えた全てについて、その夜、司は長谷川の弁明を聞くことになる。
 それはいい。この時点で想定済みだった。ただ、予想が外れたことがひとつある。店で待っていたのが長谷川一人だった、ということだ。

 かくて司は、挨拶代わりにこんな台詞をまた口走ることになった。
「・・・向井先生は? 一緒なんじゃないの?」

 鉄板焼き屋の隅の四人掛けテーブル、その奥側に、長谷川は座っていた。前に置かれているウーロン茶のグラスは、まだ殆ど減っていない。
 待たせたわけじゃなさそうだと司は思い、少しだけ気が軽くなった。と同時に、それを上回る勢いで、後悔の念が沸き起こる。

 長谷川先生の顔を見ればすぐに、向井先生のことを尋ねるのは俺の悪いクセだ。そう思った。
 いくら恋人同士だからって、必ずセットでいなきゃいけないってわけじゃないだろう。
 長谷川先生に対して失礼な言いぐさだった――そもそもここに来るべきじゃなかった。そこからして間違ってた。
 俺は一体何を長谷川先生に求める気だろう。愚痴と懺悔を聞いてもらって一人で楽になって、解決した気にでもなるつもりか?

 楽になれるとでも思ってるのか、俺は。

 だから司は言おうとした。ごめん、と。
 心配してくれてありがとう、でも大丈夫だよ。
 笑ってそう言って、それからお好み焼きの一枚でも食べて、早々に解散しよう。
 そう決めて、まずは長谷川の向かいの席に鞄を置いた。次いでコートを脱ごうとした、その時。

「向井先生なら、この近くにいる筈ですよ。呼べばすぐ来ます。その方がいいですか」
 ふわりと微笑んだ長谷川にそう言われて、司は無意識に手を止めていた。
 こんなところも昼間と同じだ――呆然としつつ、ただ無力に、そう思った。



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Date:2014/12/02
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