ただ好きだという、この気持ち。

□ 読み切り □

スローバラード(12)

 違う。
 そう言わなければ、と思った。
 進藤さんは誤解してる。俺はそんなちゃんとした人間じゃない。そんなに優しくしてもらう価値なんか、俺にはない。ないのに。

「藤吉先生がさ、心配してたよ。飛鳥さん、すごく熱心だったのに、ここんとこ全然来なくなった、って。ね、仕事落ち着いたら、また教室に顔出してさ、息抜きがてら弾いておいで。上手く弾けなくたって全然いいんだから」
「……はい……はい、」

 ああみっともない。その自覚は充分にあったし、医療の現場でスタッフが泣くなくて言語道断だ。しかも患者の前でなんて、とんでもない話だ。
 そう思って、飛鳥は必死で涙をぬぐった。ティッシュは進藤が自分のを貸してくれた。ほんとにもう……みっともない。
「す、みませ……ん。急にこんな、泣いたり……して。……男のくせに」
 ようやく話せる状態にまでなると、今度は圧倒的な羞恥で顔が上げられなくなった。飛鳥のその後頭部を、進藤はまたぱんぱんと軽く叩く。あの美しい左手で。

「男でも急に泣きたくなることくらいあるよ。俺だってさ、病気のこと受け入れられるまで、結構醜態晒したよ」
 何で俺なんだよ、とか、俺が何か悪いことしたか、とか、同じ病気でも切断しなくて済む奴が殆どなんじゃないのかよ、とか、何で俺だけしかもよりによって右腕切断なんだ、とか。当時の担当看護師や主治医の藤堂にも、相当迷惑をかけたのだと進藤は苦笑しながら話してくれた。
「藤堂先生が根気よく話してくれて。俺の場合は、腫瘍のできた位置とか大きさとか、いろいろと運が悪かったし、俺も骨折するまで我慢したりしたからさ。仕方なかったんだよね。今となっちゃ恥ずかしいばっかりだよ。あの時の看護師さんに悪いことしちゃった」

 ぶるぶる、と飛鳥はかぶりを振った。子供みたいだと思ったが、どうしてもそうせずにいられなかった。
 そして気づいたら言っていた。
「俺がピアノを習い始めた理由は、進藤さんです。少なくともあなたは、存在してるだけでそれくらい力を持ってるんです。俺、ピアノが弾けるようになったら、ちょっとでも進藤さんに近づけたことになるような気がして……それで、」
 


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Date:2015/12/11
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