ただ好きだという、この気持ち。

□ 読み切り □

スローバラード(15)

 少しヒヤッとした。藤堂からのインフォームドコンセントは終わっている筈だ。つまり進藤は、自分の病期を知っていることになる。
 積極的な治療の適応は既になく、今後は疼痛管理と緩和ケアが中心になるということを。
「うん、判った。座ればいい? えっと、待って。ノート出すから」
「あ、はい」

 だが進藤は何も追及してこなかった。素直に頷いてから今度こそベッドを起こし、備え付けのキャビネットの引き出しから方眼ノートを取り出す。
 その間に飛鳥は、足元の位置によけてあったベッドテーブルを引っ張ってきてセットした。続けて、進藤の腰とベッドの間に、枕を入れて寄りかかれるようにする。

 もう進藤は、自分の名前なら漢字で、それもかなり小さな字で書けるようになっていた。進藤曰く、「右手で書いてた署名よりも丁寧に書けてる」レベルだ。
「今日からは、いろんな字を書いてみようってことで……これを見ながら、書き写してみましょうか。先頭からじゃなくていいので、ぱらぱらっと見てもらって、どれでもいいから気に入ったものを」
 
 用意していったのは、俳句のアンソロジー集だ。近世から現代までの有名な俳人や作家の俳句が、季節ごとに並べてある。
 これは飛鳥が個人的に取り入れている方法だ。ある程度まとまったセンテンスを書けるようになるというのが目標であるわけだが、文章を組み立てるところからでは書く者の負担が大きい。となると手本を見ながら書き写す、ということになるけれど、小説やコラムなどでは量が多すぎて、これも負担になる。
 そこで俳句。ひとつひとつが短いし、ひらがなと漢字がほどよくミックスされているし、ページを飛ばしながらでも差し支えない。

「へえ……五七五、だよね。こういうの、国語で習って以来だよ、俺」
「僕も決して詳しくはないんですけど。あ、ページめくりましょうか」
「や、平気。……あー、これ、なんかいいな。『更けゆくや花に降りこむ雨の音』」
「ああ、高浜虚子。うん、ピンと来たやつ、ゆっくり書き写してみてください。あ、本は僕、抑えてますから」

 よしっ、と言いながら進藤はノートを開き、挟み込んでいたボールペンを取った。それから。
 視線は本へと落としたまま、穏やかなままの口調でこう言った。
「あのさ、飛鳥さん。俺が死んだらこのノート、もらってくんないかな」
「……え」
 


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Date:2015/12/14
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